’03.5.26 宮城県沖地震前の植物地電流異常観測データについて
相模原市 斉藤
好晴
1.概要
2003/5/26 18:24発生の宮城沖地震の前兆と思われる植物地電流の異常を約10時間30分前に観測したのでその状況を報告する。
2.地震発生状況
2003/5/26 18:24、宮城県沖を震源とするM=7、D=71kmの地震が発生した。これは太平洋プレートが潜り込んだスラブ内地震と考えられる。岩手県、宮城県の各地で震度6弱を観測し、負傷者166人以上、多数の家屋損壊被害を出した。
3.観測系
1)被測定樹木、観測場所
・樹齢約13年のキンモクセイ
・神奈川県相模原市(自宅)、震央から直線距離で約416km
2)測定機材
・東亜電波工業梶AEPR-121A ポータブルレコーダー(感熱型ペンレコ)
・仕様
・入力抵抗:約2MΩ
・許容信号源抵抗:10kΩ以下
・測定レンジ:±0.5, 1, 2.5, 5, 10,
50, 100, 250mV&V
・通常使用レンジ:冬季:25mV/Div.
夏季:10mV/Div.
3)測定系統
予知防災通巻66号1頁、図−1に準拠し設置。但し電極は北西方向1チャンネルのみ。
4.直前現象
図−1に直前の様子を示す。
2003/05/26 08:00(JST)頃数分間で約-4mVに充電カーブ的に立ち上がり、ピークに達した後、約20分で放電カーブ的に値が半減し、約4時間半で元の0ボルトに戻った。(但し時刻は私のペンレコーダー設定の曖昧さにより±10分程度は誤差がある)
2003/05/26 18:24(JST)宮城沖でM=7.0, D=71kmの地震が発生した。地震発生と前後して(正確には前か後か不明)−0.5mV程度の電圧異常を観測した。
5.1ヶ月前からの現象
図−2に4/29頃からほぼ毎日1回、08:00〜10:00(JST)頃現れた波形を示す。最初-0.5mVに立ち上がり、約30分で+1mVに変化し、更に30分程で元の0Vに戻ると言うS字カーブを描く。地震発生の5/26にはほぼ同時刻に大きな異常となって現れた。5/10頃からより顕著になり、疑問を抱き、データの変化に注意を払っていた。しかし5/15〜5/20の大潮の期間中には異常波形は出なかった。 尚、01:30〜04:30頃までの静穏時間帯は観測点から約800m離れた所を運行する電車の非運行時間とほぼ一致しているが植物の“眠る”という生理現象ではないかとの疑問も残る。
6.観測開始以来約11ヶ月の状況
2002年7月の設置以来、初期の電極と幹間の接触の“なじみ”がない頃の異常電位、雷、雨、大風、電車の雑音以外近県の小・中規模の地震には何の反応もなく今回初めて異常値を観測した。従って、今回の異常電位発生の偶然性は低く、地震との相関関係は非常に高いと考えられる。
7.直前現象に関する考察
植物生体電位を測定できる原理は、震源域で岩盤に大きな応力が掛かり圧電効果により強大な電位(電荷)の変化が発生し、コンデンサー(蓄電器)Cと抵抗器Rによる図−3に示す等価回路により地中を伝搬すると推測する。
図‐3 RC回路
1)コンデンサーについて
コンデンサーの構造は2枚の金属板電極を向かい合わせたものであり、電気を蓄めるものである。コンデンサーの容量をC〔F:ファラッド〕、誘電率をE〔無名数〕、電極の面積をS〔m2〕、電極間の距離をd〔m〕とすると容量Cは以下の式で表される。
C=E・S/d
つまり、誘電率及び電極の面積が大きいほど、電極間距離が短いほど容量は大きくなる。電極は地下の帯水層、樹木の根の表面、誘電率は土壌、岩盤の持つ固有の計数と考えられる。因みに真空の誘電率は8.854187816×10-12
である。実際には地電流は複数の帯水層−非導電層を伝搬してくると考えられ、複数のコンデンサーの直列接続と等価となり、合計の容量Cは下式で表される。
つまり接続を繰り返す毎に容量は小さくなり、地電流の変化に対し減衰が大きくなることが言える。
2)直流と交流について
直流とは電圧が一定で継続する信号であり、交流とは一定の周期で電圧がサインカーブを描いて変化する信号である。いわば電圧が立ち上がったり立ち下がったりするものである。
交流の角速度をω〔rad/S〕、コンデンサーの容量をC〔F:ファラッド〕、交流の周波数をf〔Hz〕とすると、リアクタンス(抵抗分)Xc〔Ω〕は
Xc=1/ωC
ここでω=2πf
で表される。
つまり、容量Cが大きいほどまた周波数fが高いほど伝搬路のリアクタンスXcは小さくなり電気を通しやすくする。
仮に地震前兆としての地電流が直流であっても最初の立ち上がりだけは非導電帯を伝搬する、つまり周期(立ち上がり時間)をT〔S〕とすると
f=1/T
で表され、立ち上がり時間Tが短いほどfが高くなり、ωが大きくなって、伝搬路の抵抗が少なくなる。
樹木に取り付けられた電極とアース間の電圧をE〔V〕、抵抗をR〔Ω〕、地電流をI〔A:アンペア〕とすると観測される電圧は次式による。
E=IR
仮にI=1μA、R=5kΩとするとE=5mVとなる。
3)立ち上がり波形に関して
立ち上がり波形は充電カーブに近似しており、前述の如く中間に非導電帯が介在しても交流または急激に立ち上がる直流の最初の立ち上がり波形は伝搬する性質がある。 異常電位が発生したのは地震発生の約10時間30分前であったのは、石英等に加わる圧力が強大になったときであり、岩盤破壊時には必ずしも一致しない、また何時間くらい前に発生するかも予測が困難と考えられる。
4)立ち下がり波形に関して
立ち下がり波形は放電カーブに近似しており、放電時間(時定数とも言う)をτ〔S〕、静電容量をC〔F:ファラッド〕、抵抗をR〔Ω〕とすると、以下の式で表される。
τ=CR
C=1,000μF、R=16.2MΩと仮定するとτ=CR=16,200Sec=4.5時間となり現象を説明できる。このような長時間の放電は植物単体では考えられず、大地の何らかの影響と考えられる。
5)地震直前までの波形に関して
注意深くデータを見ると3.5〜4.5時間の長い周期で-1.5mV程度の立ち上がり波形の繰り返しが見られるが、更に大きな時定数を持つ現象が現れているか潮汐等の影響を受けていると考えられる。詳細は今後検討していきたい。
8.1ヶ月前からの現象に関する考察
毎日ほぼ同時刻というのは、下記のいずれかに起因すると考えられる。
1)人工ノイズ
2)潮汐による岩盤に対する圧力増加で電磁波が発生
5項で述べたほぼ毎日発生したS字カーブの波形異常は潮の干満のタイミングとほぼ
一致しており何らかの影響を受けていると考えられる。
・図−4に横浜(宮城県のデータを参照すべき所、見やすいデータがなく参考として
挙げた)での5月の潮汐データを示す。5/26は干満の差がほとんどない若潮である。
これが地震発生の弾きがねとなった可能性がある。
・図中グラフ下側の黒丸はS字カーブが現れたことを示す。
図−4 横浜の潮汐データ
出典:つりエサの立野ホームページ
3)日の出日の入りによる電離層の変化の影響等。
4)植物の生理現象
・樹木が寝る、起きる、安らぐ、挨拶をするびっくりする、身を守る等外部刺激に
反応する等が考えられる。
9.今後の課題
1)植物地電流の他観測点及び電磁波を利用した観測方式とのデータ比較、例えばVLF帯
の電通大、VHF帯の行徳高校、MF帯のくるぞー君等のデータと比較してみたい。
2)電極に水をかけ、雨の影響の度合いの調査
3)多地点同時観測の推進
4)ディジタルデータとの併用で観測し、同期性、各種定量的解析を行い易くし突き
詰めていきたい
5)植物の生理現象の追求
6)キンモクセイの幹に電極をもう1つ追加し、同期性を検証したい
7)現象を更に追求するために電通大との連携を申し入れたい
8)今回出勤後であったため異常を確認できたのは地震発生後帰宅してからであった、
外出先に自動的に通報し波形を見られるようなシステムを構築したい
10.まとめ
当観測点に於ける植物生体電位観測の感度が鈍いためかえって、大地震のみの待ち受けに好都合と言える。
以上述べた各式のパラメーターは各々不規則に変化するため地震予知の3要素:いつ、どこで、どの位の規模かを導き出すことは現時点では非常に困難であるが、多地点同時観測をすれば震央の位置の特定がしやすくなりマグニチュードを計算で導くことは可能になる。
当面は “数時間から数日の間に半径1,000km以内のところでM=7程度の大地震が発生する可能性80%”と言う程度の予測に使えるのではと考えます。そして他の方式の観測強化体制に入る、防災体制準備、理科教育振興に活用できればいいと考える。
今回は潜り込む太平洋プレートのスラブ域での破壊であったため前兆的電磁気現象が発生したと考えられるが、宮城沖での本番であるプレート境界でのユーラシアプレートが跳ね上がるときは岩盤に加わる応力が今回より小さい可能性もあり、地電流を観測できないことを懸念する。
謝辞
本観測にご指導、ご支援を頂いた地震前兆研究会鳥山会長、大豆生田・岩本両副会長、古川卓哉氏始め会員の皆様に厚く御礼申し上げます。
その他
尚、図中TBP法とはToriyama Bioelectric Potential Method の略で、本方式の発見者鳥山会長に敬意を払い私が提唱するものです。
参考文献
予知防災通巻66号